仄暗い魔法瓶

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帽子のフルト 北西大陸の魔女達 プロローグ

 北西大陸の魔女の暮らしを書くにあたり、注意しなければならないことがある。彼女達のことを魔女と呼ぶことについてだ。

 まだ小国の点在していた古い時代、人間は、底知れぬ魔力を秘めている魔女を恐れていた。やがて彼女達が神の遣いではなく人であることを知ると、人間は魔女を弾圧するようになった。弱い魔女と、強い魔女とを選別し、繁栄の道具とした。魔女という言葉は、そうした時代の名残である。

 呪術師である私が思うに、言葉とは呪いである。人から人へ移り、激しい感情を呼び起こす。しかし、言葉とは変化するものでもある。癖の強い酒も、カクテルにすれば飲めるかもしれない。私は美味しくいただくために、あえて彼女達のことを、魔女と記すこととした。

 私は魔女の街と言われるトルテタウンで、呪術師の見習いをしていた。その時に出会ったのが、親友のフルトである。魔女見習いであった彼は、かの災厄とされるワイルドハントに銃弾を浴びせたことのある、変わった少年だった。このフルトの話を淡々と進めれば、魔女のことも美味しく頭に入っていくだろうと考えた。

 既に魔女についての本が幾つか書かれているが、この伝記はフルトの記憶を引き出した思い出話に過ぎない。これを読む者が、魔女に近しい人となることを願う。

 

 

 

一話 人食い花 前編